
16年ぶりの引っ越しで、最初は不安に寄り添うことから始めました。
「本社に行くのが楽しみになりました」移転後の社員アンケートより(原文)。このページは、そう言ってもらえるまでの記録です。本来は1年ほどかかる移転の準備。今回は、6か月で進められました。社内・社外・ビルのみなさんが同じ方向を向いて動けたからです。どの移転でも6か月でできる、というわけではありません。
10年以上ぶりのオフィス移転に不安を感じている会社のみなさまへ。前回を知る人が少なく、何から始めればいいか迷っているときによく聞かれる4つのことが、この移転の実例で分かります。
16年ぶりの本社移転でした。前回の移転を経験した社員は数名。会社自身も「不安の多いスタート」だったと振り返っています。
旧オフィスの課題は5つ。フロアが2つの階に分かれて話しにくい/静かすぎる/暗い/話しかけづらい/採用候補者への印象。
移転する会社に共通する不安も並べておきます。「どんなオフィスがよいのかわからない」「自分たちのことをわかってもらえるか不安」「後悔しないか」。
先の見えない時代に必要なのは、自分から課題を見つけて答えを出せる力。その力を引き出す答えの一つが、社員への信頼だと会社は考えました。
だから移転の中心を、声の大きくなりがちなベテランではなく、社歴の浅い女性社員4名に任せることにしました。それ自体が、これからの会社へのメッセージでした。


最初にやったのは、間取りの話ではなく感情の質問でした。「理想のオフィスで感じたい感情」をみなさんに聴き、273件の回答が集まりました。
提案の段階で仮に置いていた感情は「安心・わくわく・誇らしい」でした。社員の答えに合わせて、コンセプトを「安心・ゆったり・楽しい・生き生きが感じられるオフィス」に変えました。
そこから感情 → 得られる価値 → 必要な性能 → 具体的な状態へと、層を下りて掘っていきました。
一般的な始め方と、アルティスの進め方を並べてみます。
必要な機能についての議論ももちろん大事です。アルティスの進め方では最初に感じたい感情を聴くところから始めました。
コンセプトは、エリアごとの手描きスケッチや素材ボードをもちいてだんだん具体的になっていきました。中央にシンボルツリーのある広場、扇形に見渡せる大きなキッチンカウンター、会話禁止の集中エリア、ふらっと立ち寄れるソファ席。
提案時から使っていた進め方は「想像してもらう → 感情を言語化する → 空間の影響で確かめる」です。空間は心・体・人間関係に、気づかないうちに影響が積もっていく、という考えに基づいています。

2022年10月のキックオフから、週1回の定例で決めていきました。連絡は共通のチャットとドライブに寄せました。
コンセプトにした「安心・ゆったり・楽しい・生き生き」は、完成したオフィスだけのものではありません。毎週のプロジェクトミーティングの場でも、この4つを実践しました。
PMの大切な役割は、方向を示してみんなを導くことです。そのために実際にしたのは、毎回の定例の進行、道具(チャット・スケジュール・タスク一覧)の整備、コストの提示と色分け、外部との調整です。
1フロア、全席フリーアドレス。緑と自然素材、カーブした壁、行き止まりを減らした回遊動線、向かい合うソファ、居場所を選べる席。会話禁止の集中エリアから、会話が生まれるコピー機まわりまで、16のゾーンで構成しました。

移転前に挙がっていた5つの課題と、移転後の変化を並べます。
移転後の社員アンケートの声(原文):
「帰社する時の入り口のドアを開ける時に感じる緊張感がなくなった」
「これまで接点がなかった方々との会話が増えて楽しい」
「その日の業務スケジュールに合わせて場所を選べる点は、コンセプトどおりに使えて凄く良い」
「本社に行くのが楽しみになりました」
満足度(5段階・回答263)
5段階で3以上が96%(263人の回答)。
同じアンケートには、こういう声もありました。誰がどこにいるかわからない/会議室の予約が取りにくい/Wi-Fiと電話の品質/ロッカー前の通路が狭い/ルールがはっきりしない。
「全員が同じフロアに居るので、疎外感はなくなりました(まだ若干感じますが)」
フォロー会議では、次の手を決めました。お向かいさんへのあいさつから始める/一斉クリーンDay/使わない予約は消そうと呼びかける/延長ケーブルを用意する。
移転後は隔週で定例を続け、社内広報の支援も提案しました。

オフィスを変えるだけでは足りませんでした。どんな感情を感じたいかを聴き、若手に任せ、不満が出たら手を打つ。それを、移転の前からあとまで続けました。
横で見ていたPMの目から見ても、移転のあと、案を引っぱった4人の成長はめざましいものでした。
アルティスが大切にしているのは、みなさんと同じ目線で進めることです。だれも置いていかないマネジメント。声の大きい人だけで決まらないように、一人ひとりの声を机の上に出していきます。
依頼主の会社は、PMを選んだ理由として「人柄」を挙げてくださいました。
「メンバーに寄り添うファシリテーションが得意」
「優しい性格の社員が多い社風ともマッチしてよい化学反応が得られたと感じている」(依頼主の会社の言葉より)
この記録は、前回の移転を知る人が少なく、何から始めればいいか迷っている会社のために書きました。
